2017冬 甲ヶ山

「うつつにもゆめにもひとにあはぬなりけり」何もしたくない、時を流れさせたくない。そんな日々を過ごしてきた。
黒い服で集まった四日夜の帰り際、私はNに駆け寄り「山行きましょう」と頼んでいた。過去二度しかご一緒した事がないのに何故。今にして思えばTに操られたのかもしれない。数日後私を含む数人に山行案内が…それはTからNへ課されたルートばかりだった。
    日時:2017131日(火)
    行先:甲ヶ山北西尾根
    メンバー:Ys,会員外2
    行動記録:香取(8:00)→甲北西尾根下部(10:00)→稜線(12:30)→甲頂上(13:20)→香取(17:00
    行動概況:
「私はYCCに入るまで烏天狗(集合)さえ知りませんでした」等と申しつつ香取へ移動。このところの雨で溶け昨夜の冷え込みで凍った上に数㎝の新雪が薄曇りに瑞々しい。二人と違い北西尾根は初めての私は甲川に降りる斜面を見てビビった。こんな急なのにどうやって…枝にぶら下がりながら新雪をだましだましです。甲川の渡渉ではスノーシューを履いたままだと滑りにくいと教えて貰った。
急斜面を腕ずくで登りきると長い北西尾根が始まる。私もMyもワカン派?なのでスノーシューで急斜面を登るに懐疑的だったがNは経験的に確信の様子、じっさい慣れるとここはこれがベストだとわかってきた。やがて軽やかに先行するMyが感嘆の声、喘ぎつつ見上げると繊細で華麗な樹氷の森が一面に拡がり私達を包んでいる。Tが輝く氷の花束で迎えてくれているのを感じずにはいられない。思えば限りなく優しいTだった…ん?こんなにも繊細?ちょっと美しすぎじゃない?T、知りませんでしたよ…言葉にならず涙や鼻水やら拭きふき登ってゆく。小高い見晴らし地点でNがザックをおろす。ガスが薄れ甲頂上が見える。「あと1時間だな」Nが言うけど私は行ける気がしない。遥か彼方なのだ。けど足元はさほど埋まらない理想に近い状態だし風もなく穏やか。Go ahead
「これは行ける、行けるよ」Nのつぶやきが私を押しあげ稜線に出た。腹ごしらえして今後を話し合う。ゴジラの背の様子次第、見てみよう。細い尾根をMyは軽やかに進むのになぜ私の足は深く埋まるのか?Nも「Mkの気持ちがわかる」等と喘ぐ。露出した岩は慎重にNが先行し頂上に到達した。
地図を見て「私には完登は無理かも」と思っていた。「ここで待ってます」といつ言おうかと思っていた。天候に恵まれたとはいえ初回で頂上まで来られるなんて!二人に礼を言うと「まだ。下山があります」と窘められるのも嬉しい。あたりは白く霞んで本峰は見えない。私達以外誰もいない…ダレモイナイ?…私は大声で「おーーーーーい」と呼びかけた。
Nが「あそこに光が」と言う。甲川がスポットライトを当てたように輝き始めた。その光は強くなってゆく。「返事だ」光は近づいて来る。見上げると雲に覆われた空に小さな穴が開き、月のように白い太陽が真ん中に現れた。本峰の方角に光の柱が立ち上がり私たちの正面に輝く。「私はここにいる」あまりにも明確にTが現れ、私達は動けなくなった…。


言葉にできない。満たされて山を下った。

記録寄稿:Ys

氷の森







2 件のコメント :

  1. 夏季でも冬季でも、香取から甲方面に入る折にはTが必ず勧めてくれた【甲北西尾根】ですね。
    ベースを張ってゆっくり楽しみたいというTの言葉をよく覚えています。

    先日Iと歩いた三ノ沢、会話の内容はTへの感謝と思い出話。
    『Tのおかげで・・』『Tに教わって・・』『Tはいつも・・』『Tは・・』『Tは・・』と。
    ドカ雪のバージントレースを踏んだつもりでしたが、私はTが残してくれた深く広いトレースを辿っていたのだと気づかされました。
    更に、『山スキーの機動力を見せてあげよう』と言いながらも結局帰着がスノーシューに負けてしまうというオチまでTとの思い出そのものでした。

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  2. 会員外N
    この度の山行、ありがとうございました。
    1回目、1人で行ってダメでした
    2回目、2人で行ってあと少しでダメでした
    そして3回目、3人で行ってようやく山頂を踏むことができました。
    1番に報告したい人は、ちゃんと大好きな山の中で楽しそうに遊んでいました、そして報告するまでもなく見ていてくれました。
    厳冬期の甲ケ山山頂に立つ、女性2人のツーショットは真にカッコよく綺麗で、Tも現れずにはいられなかったのでしょう。
    本当にありがとうございました。

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