2017夏 北アルプス(立山室堂~薬師岳~折立)

「峠のわが家」~the place I belong~
「どうして同じ所(立山・黒部方面)ばかり行くの?」と訊かれた事がある。
7月に参加した県山協主催のビバーク訓練を活かし今回はツェルトで三泊四日にしてみた(実はこの山行の為に受講した)。室堂~薬師峠はテン場の間隔が私には短すぎたり長すぎたりする。歩いてみて寝場所を決めたい(もちろん一切のゴミ、キジ撃ちの紙も当然持ち帰る)。加えて今後予定の山行が険しいモノばかりなので岩に引掛らない小さいザックで旅する研究をしたいのだ。出発日を遅らせ天候を選んだが体の不安要素は解決せずいつでも中止覚悟の二重フレキシブル山行、これでは同行者を望むべくもない。

①日時 2017.8.26(土)~29(火)
②行先 立山室堂~薬師岳~折立
③メンバー Ys 単独
④行程 
【8.26】松江(4:30)→(12:45)立山I.C.→(15:25)室堂→(16:30)雷鳥沢
【8.27】雷鳥沢(6:20)→(13:20)五色ヶ原(14:10)→(16:00)越中沢乗越
【8.28】越中沢乗越(5:50)→(6:40)越中沢岳(7:00)→(8:00)スゴの頭(8:50)→(13:45)北薬師岳→(15:00)薬師岳→(17:00)薬師峠
【8.29】薬師峠(5:40)→(14:26)立山Î.C.→(22:26)松江
⑤行動概況
【8.26】長い車移動のお供は超懐メロのPPMにジョンデンバー。♪ロッキーマウンテンハ~イ等とわめきながら眠気と戦う。土曜昼の立山駅Pはどこも満車で苦心、室堂到着が遅すぎ縦走開始は諦め雷鳥沢に下った。前日は暴風雨で数張りだったという雷鳥沢は200張り以上の賑わいで家族キャンプも多い。
夜中に隣のご家族が「寒い寒い」と騒ぎ出し目が覚めた。私も相当寒い。今回38㍑ザックに予備を含め大量5日分の食糧のあおりで薄い夏シュラフ、カバー省略にしたが無理があったか?ダウン上下にカッパ等持参の全てを着込みザックに脚を突っ込んでいても脚以外は寒い。ふと敷物にしているSOL救急シートに思い至った。先の訓練でK場隊長が「これほんとお勧めです」と力説されたので新調したのだ。マット下から引出し体を半巻きすると劇的に暖かい。通気性は無いが風が吹き込むから問題ない。

【8.27】目覚めると5時で慌てたが飛び起きてはならない。ストレッチをして温かいスープなど食べゆっくり歩きだす。全身が重い。先月から急に高度に弱くなった。『こりゃだめだ。一の越で下山かな』弱気になったが一の越に着いたら『せめて龍王岳まで』、龍王に着いたらば『五色までは行けるだろ見えてるし』ずるずる先へ。龍王岳を過ぎると通行人が一気に減った。たまに会うのはほぼ全員単独。薬師までは幾つもの地味な山を越えてゆく。延々と歩くのが好きな者だけの世界なのだろう。
峠の我が家
五色ヶ原山荘でビールにカレーの昼ご飯を食べ『明日の行程は長い、あと2時間分稼いでおこう』と決意。山荘のお兄さんは「スゴまで細くてビバーク適地ありませんよ」と言うが何か所か見付けられそうに思う。本当に無ければ引き返す。だいいちこんな昼間っからテン場にいると酒ばかり飲んで身体に悪い。左右を見回しながらゆっくり進む。ガスが湧き見えないが越中沢岳の登りに入った模様。高所の吹き曝しで震える夜はもうゴメンだ。進みたい気持ちを抑え1.5時間地点の暖かそうなコルに引き返す。木立にツェルトを吊るし刈払われた笹を集めてフカフカの寝床が完成した。『グッジョブ』自分を誉めウイスキーと地図を出す。なんと現在地に丸印があるのは以前に見当付けた場所と一致しているのだ。
ガスが去り遥か彼方にチラ見えるガレ山が赤牛岳とわかり一気に心温まった。好きなんです赤牛岳。ツェルトを夕陽が照らし始め、見上げれば半月と夕星。もう誰も通らないだろう。人里離れ小屋からもテン場からも離れた深い山中に一人。初めてなのに不思議な懐かしさと幸福感がひたひたと心を満たしてゆく。天候は安定し水は3㍑、今日知り合った数人の単独者(五色泊)が明朝ここを通ると知っているから何の不安もない。静かで安らかな峠のわが家…向かいの草の上に師の幻を座らせてみた。山々の茜色が青くかわるまで語りかけた。
ついに来たザラ峠
【8.28】目覚めるとまたも5時。慌てるより10時間も爆睡した事に感動した。とはいえ皆さんが来る前に撤収せねばお笑草だ。越中沢岳に上がると巨大な薬師岳が見える。スゴ乗越小屋の赤い屋根もすぐそこに見えて余裕を感じスゴの頭でのんびり薬膳うどんを作っていた私は甘かった。すぐの筈が下っても登っても近くならない。やっと着いた小さな小屋は隅々まで心の籠った素朴な造作と浮世離れした小屋番さん達も素敵で「ここに泊まりたい」と強く思った。がこの後が本番だ。
峠の我が家2
スゴ乗越小屋
間山に差し掛かると左下・上の廊下を隔て赤牛岳の中腹にかねて憧れの桃源郷「薬師見平」が現れ胸が高鳴る。Tとルート取りやメンバーを何度話し合った事か。つくづく見る。何度も見る。そして今回の山行はこの為だったのだと悟った。登山道は無く凄い藪と格闘し恐るべき崩壊地を延々と横切ったり下ったり或いは上の廊下から中のタル沢を登るとか。秘境・高天原の遥か先なのだ。鳥なら真直ぐ飛んで行けるものを…。
眺めて巨大な薬師岳は登るともういつ頂上に着くのか見当も付かない稜線の長さ。切り立つ岩稜の北薬師から(本)薬師までも長いのなんのって。無の境地で念仏のように歩き続けるしかない。頂上祠に着いた時は心から柏手を打ち神仏に感謝した。ついでに鐘を三回打ち鳴らした。もういいのだ。あとは峠へ下るだけ。峩々たる岩に横たわり目を閉じた。
⑥トピックス
・太郎平から折立に下る最後らへん、箱を担いだ小屋番達が風のように抜いていった。降りたらバス停前で彼らは大量の野菜など背負子や大ザックに積載中。居合わせた登山者全員の顔に感謝が浮かんでいる。若旦那ダルビッシュは外で見ると一段とカッコ良く見惚れてしまった。
・重い生野菜や肉・魚をもっとドライ化せねば小ザックでも岩場の下りが辛い。

記録寄稿:Ys

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